怪しい経験はいつも夏
彼女はどうして、わざわざ聞いたのだろうか。
『ここに居ても良い?』
2回も。黙っていれば、そのまま居れたはずなのに。
12歳の夏休み、ルアー大会にエントリーしていた。
なかなか大物が釣れず、地元で名所と呼ばれる湖に忍び込み、釣りをしていた。
その最中、何かに引っかかった感触があり、そのままリールを巻いていると、
黒い髪の毛の様なものがルアーに絡まって水面に上がってきたのだ。
目の錯覚か、水面に虚ろな目をした女性が映っている。
隣を見ても誰も居ない。
友達は少し離れたとこでルアーをキャストしていた。
良くない事が起きる。
子供心に察知した時、買ったばかりのルアーがもったいない気持ちを上回り、
慌ててラインを切った。なにかと絡まったまま沈んでいくルアー。
女性の事は、なんだろうと思っていた程度だったが、ふと同じ湖面を見てしまった。
ゆらぐ水面から、こちらを見つめる女性と目が合った。
その日の夜から、彼女が現れるようになる。