目の前の大惨事が信じられなかった
暗闇のリビングに置かれた何も映ってないテレビを眺めていた。
画面に映像が流れ始める。
津波の第一波を受けた地区に、様子を確認する為に戻って来た人々。
背後から黒い壁が迫ってくる。津波だ。
『何してる。早く逃げろ!』
画面に向かって叫んだ途端、画面をすり抜け、現地に立っていた。
目の前の壁がすぐそこまで近づいていた。
慌てて逃げようとしたが、がれきが邪魔で走れない。
あっという間に捕まってしまった。
小雨の降る薄暗い空が凄い速さで流れていく。
時速50kmを越えていたのではないか。
積みあがったがれきで空はあっという間に小さくなり、真っ暗になった。
宙を浮いているのか、上も下も分からない。
体の機能が次々に失われていく。もう助からない。
『みんなを助けてくれ』心で祈った。
『みんなを助けてくれよ!』天に向かって吠えた。
暗闇に現れた青白い顔が金色に輝き始める。
全身の輪郭が見えた時、それは甲冑に身を包んだ鬼だった。
『どうしてここに鬼が居るんだろう』
次の瞬間、がれきの上に座っていた。
時の流れは止まっていた
目の前に鬼が居た。
金色の甲冑に身を包み、上向きの牙2本が生えたおどろおどろしい顔だ。
でも優しい眼だった。
隣には、白いシャツに赤いスカート、髪を二つに結んだ小さな女の子が、金色のカエルの前に座っていた。巨大な埴輪が両手に人を抱えている。見たことのない、近未来を彷彿とさせる神も居た。
水平線の彼方まで海を覆いつくした金色に輝く神々の軍団。
『みんな助かった。良かった。』
幼くしてこの世を卒業した者は、あるものは杉の木に、あるものは楓の木に、と姿を変えて少しづつ成長していくという。その姿を見て、傷ついた魂が癒される時が来る。
道端のお地蔵さんにも役割がある
祠やお地蔵様、あれは神の世界とこの世を繋ぐ門(ゲート)ではないか。
現世に緊急事態が発生した時、その門を通って、神の軍団がなだれこんでくるのだ。
全知全能の神様でも、あの切迫した事態では1つか2つの魂を救うので精一杯だった。
心の復興がいつになれば始まるのか、見当がつかない。
今はただ、傷ついた人たちの気持ちに寄り添い続けるだけだ。