たいげい型は、川崎製ディーゼルエンジン25/25SB型を搭載しているが、4番艦(02SS)『らいげい』から、新型機関25/31型に変更されている。
川崎の社報で開発経緯について紹介されている。
(リンク先抜粋)
潜水艦用ディーゼルエンジンでは、「はるしお」用に開発した25/25型を、1995年に「おやしお」に納入。2006年にはマイナーチェンジした25/25SB型を「そうりゅう」に納入した。 また、防衛庁関係では、新型ディーゼルエンジン開発の要望を受けて2000年から開発を開始。2010年度から2018年度には防衛省技術研究本部の新型スノーケル発電システムの試作事業に参画して、潜水艦用ディーゼルエンジン25/31型を開発し、2020年に契約、2022年に納入予定である。
https://www.khi.co.jp/corporate/timeline/pdf/125history_11.pdf
”新型スノーケル発電システムの試作事業”とは、「スノーケル発電システム研究」であり、事業の目的は、”2020年代以降の情勢に対処するため、潜水艦の運用性、隠密性及び残存性の向上を企図し、小型・高出力化及び静粛化を図った新型スノーケル発電システムを開発する。事業の必要性は、”次世代潜水艦において艦の運用性、隠密性及び残存性の向上を企図し、短時間で所要の充電が可能な小型・高出力化及び静粛化を図った新型スノーケル発電システムを開発する必要がある。”とされている。
そうりゅう型から、エンジンは浮き床構造上に配置され、かつ防振防音構造でマウントされていると思われる。MTU社製の写真と動画が分かり易い。
エンジンの最高出力は、そうりゅう型の8,000馬力から、たいげい型からは6,000馬力に低下していると公表されている。結果、航行速力は低下したが、潜行時間は大幅に伸びたとされており、非AIPの約3日、AIPそうりゅう型のAIP使用時5ノット約14日よりも、速力増加かつ約30日程度、潜行可能とされる。
航行速力を落としたのは、エンジンサイクルduty(下図のload factor)を変更した為(下図、左Application indexのC→B)だ。エンジンサイクルdutyを上げた結果、最大パワー(下図Ppower density)は下がった。
リチウムイオン電池の充電には鉛畜電池よりも、多くの電流が必要になり、その為にはモータの出力電流を上げる必要がある。出力電流を上げるには、モータと接続しているエンジンを出来るだけ高速回転させる(dutyを上げる)ことになる。
つまり航行速力に影響する最大パワー(低いduty)と、電池を効率的に充電する(高いduty)のは、相反するエンジン特性が必要となる。
よって、たいげい型3番艦までは、そうりゅう型と同じ25/25SBエンジンのまま、dutyだけを上げたのだ。結果、最大パワーが下がった。そうりゅう型の8,000馬力から、たいげい型の6,000馬力に低下したのは、これが理由だ。
たいげい型4番艦『らいげい』からは、新型機関25/31型を搭載したが、カタログスペック上の航行速力は変更なしとなっている。が、防衛省の説明では『よりパワフルになった』とされている。
新型機関25/31型は、このdutyを可変に出来るようになっていると推察する。
潜行時には最大パワーを得るために、低いdutyにして、浮上後リチウムイオン電池の充電時には、高いdutyに切り替える。これにより、4番艦『らいげい』は水中での高速航行と短時間での充電を両立出来ていると思われる。
dutyをどのように変更しているのかは全く分からない。民生技術では本田VTECエンジンは、回転数に応じてカムを切り替える構造となっていた。
4番艦(02SS)『らいげい』は、たいげい型コンセプトを実現する、本来の100%の実力を発揮出来るようになった潜水艦、と言えるだろう。