BASI-KRAMER’s blog

浜までは海女も蓑着る時雨かな

架空小説 冤罪

殺したのお前だろ?

 

取り調べが続く。

 

『殺してません』

 

男はすぐに答えた。

 

この男は、女の子を強姦・殺害した容疑で逮捕されている。

子供を送迎するバスの運転手をしながら、ターゲットを物色していたのだ。

他人の風呂を覗く行為が何度も目撃されていたという。

 

『やったのお前だろ?』

 

沈黙の後、男は絞り出すように答えた。

 

『勘弁してください』

 

この取り調べテープの沈黙には、男の『心の声』が記録されている。

 

『私は殺してません。強姦していたら死んでいただけです』

 

逮捕された時、男には罪の意識があった。

 

この男には知的障害がある。

殺人の方が、死体を強姦するよりも、罪がずっと軽いはずと踏んでいた。

逮捕後、すぐに女の子を殺害したと自白したのは、出来るだけ自身の罪を軽くする為であった。

 

ところが弁護士の話を聞いているうちに、男は驚愕したのだ。

なんと、殺人の方が、死体を強姦するよりもずっと罪が重いという。

 

男は自身の自白を後悔した。

自分はとんでもない事をしてしまった。なんて事だ。

 

空き家で女の子を強姦する順番待ちをしていた。

前の男の行為が終わったので、しめしめ自分の番だと、女の子の体を舐めまわしていると、途中で死んでいる事に気が付いた。とりあえず出すのものを出して、その場を立ち去ったのだ。

 

それだけだ。自分は殺してない。

これは冤罪だ。

 

時は流れ、男は冤罪とされ釈放された。

 

確かに殺したのは別の誰かだ。

だが、この男が無罪と言えるのだろうか。

 

女の子の無念は誰が受け取るのだろうか。

 

私の額の千里眼には、あの時の様子が映し出されている。

 

女の子は松の枝を手にしている。

 

彼女は松の木へと姿を変えたのだろうか。

幼くしてこの世を去った者は、ある者はクスノキに、またある者はイチョウにと、

魂を宿し、この世で少しづつ大人になっていく。

 

東北の大地で、彼女は立派な大人になり、

その姿が多くの人たちの傷ついた魂を癒してくれるだろう。

 

男には無間地獄が準備されている。

貴様には平穏無事な時間など、未来永劫どこにもないのだ