BASI-KRAMER’s blog

浜までは海女も蓑着る時雨かな

死相が見えた時のこと

人の輪郭がぼやける

 

実家の近所に名物おじさんと呼ばれる男性が住んでいた頃がある。奥さんとあまり仲が良くなかったらしく、いつもタバコを吸いながら、団地の中を歩き回っていた。

 

おじさんはキョロキョロしながら歩くので、帰省して初めて出会ったときは、空き巣では?と警戒していた。顔はにこやかに笑っているように見えたが、どこかしら薄気味悪さもあった事を覚えている。

 

両親から男性の事情を聞いて(両親の認知症は、まだ初期段階だったと思われる)、そんなものかと思っていたが、ある時から不思議な現象が起き始めた。

 

それは夏に帰省した時、男性は相変わらずうろうろしているのだが、日差しの中の後ろ姿が、ぼんやりとして見えるのだ。暑いので、アスファルトが熱せられて、陽炎現象のせいかと思ったが、男性の顔を見ると、そのへらへらと笑っている顔に、薄暗い影が巻き付いているに見えたのだ。

 

日に日に輪郭はますますぼんやりとなり、影はぐるぐると顔から体に巻き付いているようにも見え、笑っている顔はどす黒い蝋人形かと思える容姿へと変わっていった。

 

それから間もなく、男性は近所の踏切で夜に電車にはねられて死んだ。電車は気付かずに走り去って、車両の血の跡を見て、気が付いたそうだ。

 

微笑んでいる奥さんが、近所の方から『侵入扱い※で賠償金払わなくていいから、良かったね』と声をかけられているのを見た時に、人間が一番怖いな、と思った次第だ。

 

※人をはねた際に電車が停車せずにそのまま運行した場合、”飛込”ではなく”侵入”として扱われ、賠償金の請求がないと言う。真偽不明。

 

 

この場所は一直線で、かつてはかなりのスピードで電車が通り過ぎていたが、飛込が相次ぎ、ゆっくりと運行されるようになった。